『ザ=ワールド=イズ=マイン』解説あらすじ

新井英樹

始めに

始めに

 昨今、日本でもテロ事件が相次いでいます。そこで 今日は名作漫画『ザ=ワールド=イズ=マイン』のレビューを書いていきます。

スタイル、ジャンル、背景知識

独特のリアリズム

 新井英樹は真説の巻頭インタビューにもありますように、今村昌平流のリアリズムや、ニューシネマの作品群から顕著な影響を受けています。ただ、リアリズムと言っても、今村への影響が顕著な井伏鱒二(『山椒魚』)、坂口安吾(『桜の森の満開の下』)などの象徴主義の作家と重なるような、誇張的な表現でもキャラクターは描かれています。そうでありながら、一人一人のキャラクターが生々しく、迫力を持って描かれており、それが作品のテーマにつながっています。

 例えばドストエフスキー『罪と罰』、トルストイ『戦争と平和』のように、他者の伝記的生を活写することで、それに対する配慮と尊重の義務と責任を今一度問い直すような内容になっています。

ニューシネマ、カウンターカルチャー、ロックカルチャーのパロディ

 この作品は、ロックカルチャーにしばしば見られるような、自己の差異化と絶対化、倫理的瑕疵の正当化を批判的に描いています。例えばアーサー=ペン監督『俺たちに明日はない』のように、人倫を外れた主人公たちの道中を、どちらかといえば突き放すような眼差しで追っています。

 先にも述べたキャラクターの生々しさは、他者が有する伝記的生の存在を再確認させます。それが他者の命を奪うことの責任を、主人公や読者に訴えています。

ヒグマドンとアニミズム

 この作品にはヒグマドンと呼ばれる怪獣が登場します。これはゴジラのような存在で、人類の実践に対してその倫理的責任を問いかけています。

 けれども、怪獣の造形としては外見もパッとしなくて私はそんなに好きではないです。

 また本作はアニミズムに積極的な価値付けを与えています。アニミズムとは、自然を擬人化し、それにたいする戦略的コミュニケーションの応酬として、呪術、儀礼をデザインしていく実践です。ここでは対人関係を司る計算モジュールが、自然のような人格を持たない対象への対応に援用されています。

 アニミズムも他者への倫理的配慮を可能とする心の理論や、高次の表象能力に根ざすものであるからこそ、本作においても価値が与えられています。

ポストコロニアル

 この作品は東北地方を舞台とし、方言を取り入れるなど、ポストコロニアルな主題が見えます。また、アメリカという伝統や公共性なきネーションに隷属して主体性を失い、暴力の拡大に加担する日本を批判的に描いています。

物語世界

あらすじ

 各地で連続テロを起こす、トシモンコンビの道中が描かれます。彼らの凶行は、やがて国全体をも混乱に陥れ… 

登場人物

  • トシ:モンちゃんのカリスマ性に惹かれる。
  • モン:公共性、他者への敬意のない、純粋な暴力性を持つ男。そうしたパーソナリティの形成には過去の秘密が…

テーマ

 自己の絶対化への批判、その契機としての他者の存在が作品のテーマです。自己の絶対化の累積がもたらす、暴力の拡散が描かれます。

総評

粗いが生々しい演出。希求力のあるテーマ

 少しデッサンや描写は荒いですが生々しく、訴えてくるテーマを持っています。おすすめです。

関連作品、関連おすすめ作品

・今村昌平監督『楢山節考』:新井英樹への影響が顕著です。

・『ジョジョの奇妙な冒険 第六部』:ロックカルチャーの自己絶対化の権化のような強敵との戦い

・マーティン=スコセッシ監督『タクシー=ドライバー』:英雄譚のパロディ

参考文献

香取俊介『今村昌平伝説』(河出書房新社.2004)

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