始めに
始めに
『バイオハザードRE:4』が発売されましたが、そのネタ元はあからさまに『寄生獣』です。今回はそんな不幸な(?)漫画について語っていきたいと思います。
スタイル、背景知識
伝奇もの。寄生虫ホラー、擬態ホラー
岩明均は伝奇(『七夕の国』)などのSF風の作品が多い作家です。本作も『遊星よりの物体X』『エイリアン』のような寄生虫ホラーになっています。
また人間になりすます存在の恐怖を描くという点では吸血鬼ホラーと重なります。
少ない線、リアリスティックな語り口
岩明均の漫画の特徴として、線の少ないシンプルな画風が挙げられます。ちょっとドライでオフビートな作品のムードは、シリアスだったり過激なバイオレンスだったりをほどよく和らげています。
しかし全体的に背景に描きこみが少なくないです。ファッションもこじゃれてはいないものです。ちょっとがっかり…。
焦点化など
もっぱら視点人物は主人公・泉新一が担うことになります。モノローグは後半にかけて増える印象です。人物の行動に見える端正な心理描写が目立ちます。
物理主義からの倫理の基礎づけ
この作品のテーマは、ダニエル=デネットの哲学に代表されるような、物理一元論的な世界観における、ヒューマニズムの試みです。新一とミギーは交流を通じて、情動に根差す価値的世界のなかでの実践を評価するようになっていきます。
最強の敵、後藤との戦いの場面で、新一を最後に助けたのが人間の倫理的実践を可能にするための高次の表象能力だったのは印象的です。それが思いがけない行動変容をもたらし、後藤に致命傷を与えるのです。これは本作にオマージュを捧げた『HUNTER×HUNTER』のキメラアント編のウルウェンのコムギを巡るメルエムとのやり取りとも共通します。
後藤は経済、科学を含めた、人間の価値的世界のなかでの実践、文化的学習、その歴史的蓄積としての文化進化の前に破れたのでした。
規範や個人の選考や信念の洗練可能性に見える希望
新一は異なるものたるミギーとの交流のなかで自分の価値的信念を洗練させ、それが後藤を殺すべきか、否かという問いに繋がります。それは恐らく、殺すことも瀕死の後藤を前にその場をただ後にすることも、それ自体で善い行為のないダブルバインドであって、誰にも新一という個人を咎める権利はないのでしょう。
新一が最後に出した結論は、動物虐待や動物搾取など、種差別という不正義の蔓延を目にする今日においてどん詰まりのような印象をも生みます。けれども、新一がミギーや死んだ子犬に対して抱いた倫理的配慮の成立は、それに仄かな希望を与えています。後藤は人間の社会的活動総体の前に圧倒されましたが、価値的世界のなかでの実践の歴史的蓄積のなかで、規範的価値観の洗練の可能性がここに現れていると言えます。
フィクション世界
あらすじ
やがてパラサイトと呼ばれる寄生生物は静かに人類に牙を剥きつつありました。彼らは人間の脳に寄生し食い荒らし、人間に擬態して、また別の人間を補食します。
主人公・泉新一のもとへやって来たパラサイトは新一の脳に寄生するのに失敗し、右手に寄生すします。こうして、脳を奪われずにすんだ新一と「ミギー」と呼ばれるようになったパラサイトの共同生活が始まります。
登場人物
- 泉新一:主人公。能天気な性格ですが、家族の死や、ミギーの細胞を受け入れたことで人格が変化していき…
- ミギー:パラサイト。新一の右手に寄生します。向学心が強く、人間社会に興味を持ちます。
総評
捉えたテーマが圧巻。Sfアクションの傑作
この作品は捉えたテーマが素晴らしく、またSFアクションとしても隙なく構築されています。名作です。
関連作品、関連おすすめ作品
・貴志祐介『天使の囀り』、黒沢清監督『DOOR3』:寄生虫ホラー
・『仮面ライダーオーズ』:人間の情動に根差す価値的実践を評価。
・『HUNTER×HUNTER』:制度のなかでの人間の戦略的コミュニケーションの実践。倫理的実践。
・ドン=シーゲル監督『ボディ=スナッチャー/恐怖の街』:擬態ホラー
参考文献
信原幸弘『情動の哲学入門』(頸草書房.2017)
戸田山和久『哲学入門』(筑摩書房.2015)
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