始めに
始めに
今回は、名作漫画『銀と金』についてレビューを書いていきます。個人的には福本漫画の最高傑作だと思っています。
画風、コマ割り、背景知識
ヘタウマ系。背景の描き込み。
福本漫画を特徴づけるのはその個性的な画風と、ケレン味あるエフェクトです。福本の画はデッサンなどが上手いとは言えませんが、けれどもその徹底的な描き込みと荒々しいタッチが、青木雄二『ナニワ金融道』やドストエフスキー(『罪と罰』)にも似た、極上の人間喜劇を構成します。個性的なキャラクター一人一人が魅力的に描かれています。
勝負師の世界
福本漫画を特徴できるのは、その勝負師の世界です。人情など、情動に裏付けられた価値的世界を背景に、戦略性を張り巡らせて機知を競う勝負師の世界を生き生きと描いています。ちょうど色川武夫の小説世界にも似た、ピカレスクロマンです。
一方で、神威一家のエピソードなどで、勝っても楽しくない勝負があることも示唆されています。それは弱者が全てをかなぐり捨てて、殺す気で挑んでくるような勝負です。そこには戦略的コミュニケーションの機知をはたらかせる興奮はなく、相手から全てを奪い去った後の虚無感だけが残ります。勝って楽しいのはあくまで勝負師同士の決闘における勝利だけなのです。周囲の弱者を蹴落として得られるような勝利を否定的に描くのは『カイジ』シリーズの人間競馬のエピソードなどでも描かれます。勝負師の自己実現は、勝負師を倒した先にのみあります。
物語世界
あらすじ
競馬場で主人公の森田鉄雄は平井銀二に出会います。森田に、銀二は数個の段ボール箱をアパートまで運ぶ、簡単な仕事に誘います。森田が銀二の隙を見て箱を開けると、札束が詰め込まれていました。銀二は森田の前に札束を積み上げ、ある老人の殺害を頼みます。森田は「人殺しはできない、だけど裏社会で生きたい」と言います。そんな森田の覚悟を銀二は受け入れ…。
総評
勝負師の世界のリアリズム
色川武夫のような、勝負師の世界を描くピカレスクの佳品です。
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