始めに
始めに
『鬼滅の刃』についてレビューを書いていきます。
スタイル、背景知識
吸血鬼
本作品は伝奇ロマンになっています。本作の敵となる「鬼」は、西洋の吸血鬼のような存在で、血によって自分達の仲間を増やします。現代では血液で仲間を増やすのはゾンビによく見られる設定ですが、もともとロメロ監督以前のゾンビは『恐怖城』(1932)のようなブードゥーゾンビで、ただゾンビマスターに操られるだけの存在でした。吸血鬼はもともと感染症のメタファーでしたがマシスンに『地球最後の男』(1954)という吸血鬼とウィルスパニックホラーを合わせた作品が登場し、その後ロメロ監督『ナイト=オブ=ザ=リビングデッド』(58)があり、これはウィルスを媒介として仲間を増やすゾンビを描いたものでした。このゾンビの設定が爆発的に広がっていきます。
伝奇ロマン(木原敏江、萩尾望都、荒木飛呂彦)、象徴主義(山口貴由、手塚治虫、南條範夫、池宮彰一郎)
吸血鬼を描いた作品には木原敏江『銀河荘なの!』、萩尾『ポーの一族』、荒木飛呂彦『ジョジョの奇妙な冒険』(1.2.3.4.5.6.7.8)がありますが、本作もそうした系譜を継いでいて、特にこの3人からの影響は顕著です。吾峠は、あまりデッサンがうまい方ではないですが、それでも漫画の演出は上手く、また荒木飛呂彦のような読み上手であるからこそ、卓越した古典主義者です。
また、本作品は山口貴由(『シグルイ』)、手塚治虫、南條範夫、池宮彰一郎的な、シンボリズム、ダダイズム風の残酷時代劇の装いで、終盤の展開も『十三人の刺客』を思わせます。グランギニョールな世界に生きる懸命な命の煌めきが胸を打ちます。
バトル漫画(ブラックウッド、探偵小説)としての戦略性はイマイチ
本作は演出、キャラクター造形こそ光るものの、バトル漫画としてはちょっと大味です。ルールのデザインやその中での戦略的コミュニケーションの応酬が、特に半天狗を倒して以降はどんどん大味です。
あと、主人公勢の能力が呼吸による身体能力強化でほぼ体術オンリーなので、敵の能力の方が面白いです。
物語世界
あらすじ
大正時代。主人公・竈門炭治郎は父親の跡を継ぎ、炭焼きをして家族と暮らしていました。炭治郎が留守のとき、家族が鬼に殺され、唯一生き残った妹・竈門禰󠄀豆子も半分鬼になってしまします。鬼となった禰󠄀豆子から炭治郎は襲われますが、冨岡義勇に救われます。義勇は禰󠄀豆子を殺そうとしますが、人間としての感情が残っていると気がつき剣を収めます。
義勇の導きで炭治郎は、禰󠄀豆子を人間に戻し、鬼を倒すために剣術をまず磨きます。2年後、炭治郎は「鬼殺隊」に入ります。
総評
秀才タイプの作家の佳品
松本大洋(『ピンポン』『鉄コン筋クリート』)、久保帯人(『BLEACH』)のような天才タイプではないですが、努力で堅実に表現を積み上げるタイプの作家の作品で好印象です。
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参考文献
・風間賢二『ホラー小説大全[増補版]』(角川書店.2002)
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