始めに
望月峯太郎『ドラゴンヘッド』解説あらすじを書いていきます。
背景知識、作風
ニューウェーブ漫画
望月峯太郎は、ニューウェーブの代表的漫画家です。
漫画におけるニューウェーブは、1970年代末から1980年代初頭にかけて青年漫画界に現れた、少年漫画と少女漫画、劇画の枠組みを乗り越える動向や革新的表現の潮流について言われたもので、ニューウェーブに括られる漫画家は幅広いジャンルと内容をたたえていて、代表は大友克洋です。
ジャンルとしてニューウェーブはくっきりした輪郭を持つものではなくて、同時代のジャンル越境的表現を展開する漫画家について広くニューウェーブと呼んで広くそれが定着していった感じです。
望月峯太郎もそんなニューウェーブを代表する漫画家で、ホラーやラブコメ、海洋冒険ものなど幅広いジャンルを手がけつつ、ニューシネマなどに影響されたと思しきドライでオフビートでモダンなセンスに裏付けられた画風、作風を特徴としました。
パニックホラー
本作はパニックホラー的な物語になっています。
修学旅行の帰途、大地震により、主人公・青木照(テル)らの乗車していた新幹線は浜松付近のトンネルで脱線します。出入り口は崩壊し、外界と遮断されたトンネル内で、3人の生存者(テル・アコ・ノブオ)は追い込まれていき…というのが掴みのサスペンスで、その後トンネルからの脱出後の世界を襲ったカタストロフの謎、そこからの生還が中心的なプロットになっています。
前半はゴールディング『蠅の王』や楳図『漂流教室』の影響が顕著に見て取れます。
物語世界
あらすじ
修学旅行の帰途、大地震により、主人公・青木照(テル)らの乗車していた新幹線は浜松付近のトンネルで脱線します。出入り口は崩壊し、外界と遮断されたトンネル内で、3人の生存者(テル・アコ・ノブオ)は追い込まれていきます。
そこから逃れたあとも、富士山の大噴火による、大災害で荒廃した世界を背景に生き残りをかけたサバイバルが展開されます。
所感
絶対オチまで考えてない
長期連載の弊害のように言われる本作ですが、実際のところ本作は浦沢直樹みたいな感じで、引き伸ばしと肩透かしがあまりにひどいです。
漫画というメディアは人気になれば長期連載、不人気になれば打ち切り、という感じで読者の反応によってその後が左右されやすいです。なので編集とか媒体視点からすると、企画の段階で長いタイムスパンでの全体性やオチまでの構想をかっちり決めさせる必要性はそんなにないわけで、前半の山場やシチュエーションとか企画のインパクトのほうが重視されやすいです。また読者の反応をフィードバックして臨機応変にプロットとかシチュエーションを修正していく必要もあるから、長期連載になると連載初期から一貫したコンセプトやプロット、設定、テーマを通底することはかなり困難になります。
本作もそうした漫画メディアの煽りを食って、とにかくプロットがいい加減で、序盤のトンネルまでがピークで、まず絶対にオチまで考えてないと思います。
寄生獣とアイアムアヒーロー
こうした媒体の特徴で、成功したケースは『寄生獣』で、失敗した例が本作と『アイアムアヒーロー』です。
正直、この3つの漫画のいずれもオチまでちゃんと考えていなかったと思います。ただ『寄生獣』が明暗を分けたのは、連載の中でプロットとか展開が蓄積するなかで、それ自体が伏線として機能するようになり、それにテーマとしてうまく落としどころを作者が見出すことに成功したゆえに、作品が一貫したテーマやコンセプトを伝える洗練された一貫性を帯びたものとして構築されたことです。
他方で、本作も『アイアムアヒーロー』も、オチまで考えてなくて、途中で物語の展開を踏まえてオチを作者が模索しながら作品を展開していったものの、結局作者は落としどころを見いだせなくて、投げっぱなしみたいな仄めかしエンディングでお茶を濁す、みたいなラストになってしまっています。
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