高野文子『棒がいっぽん』解説あらすじ

1980年代

始めに

高野文子『棒がいっぽん』解説あらすじを書いていきます。

背景知識、作風

アート漫画

 高野文子はアート漫画の代表格です。萩尾望都、石ノ森章太郎などから影響をうけ、その文学的バックグラウンド、モダニズム的前衛的表現から影響を受けました。

 また同人サークル『楽書館(らくがきかん)』に参加し、そこで『COM』や岡田史子、永島慎二などの作品を知ります。1978年、『楽書館』メンバーのつてで、新雑誌『JUNE』に「絶対安全剃刀」を掲載し、この作品が商業デビュー作となりました。

 このように、発表までに永島慎二らガロ系の漫画の刺激や、萩尾、石森からの影響があったりと、創作に文学的、芸術的背景を構築し、そこから表現を組み立てました。

ニューウェーブ

 高野文子は、ニューウェーブの代表的漫画家です。漫画におけるニューウェーブは、1970年代末から1980年代初頭にかけて青年漫画界に現れた、少年漫画と少女漫画、劇画の枠組みを乗り越える動向や革新的表現の潮流について言われたもので、ニューウェーブに括られる漫画家は幅広いジャンルと内容をたたえていて、代表は大友克洋です。

 ジャンルとしてニューウェーブはくっきりした輪郭を持つものではなくて、同時代のジャンル越境的表現を展開する漫画家について広くニューウェーブと呼んで広くそれが定着していった感じです。

 本作でも「病気になったトモコさん」など、意識の流れのような手法が展開される前衛的表現の作品を含み、漫画表現の革新者としての高野の才気が冴え渡ります。

物語世界

あらすじ

美しき町

 塚田サナエさんとノブオさんは、見合い結婚をした後、ノブオさんが働く工場の向かいのアパートで暮らしています。ノブオさんは月曜から土曜まで週6日間働き、夜勤は月3回。日曜日には夫婦で連れ立って丘に登り、そこでお弁当を食べます。

 夏の終わり、サナエさんはアパートの部屋を、ノブオさんも所属する労働組合の集会所として提供してもらうよう頼まれます。集会は月2回。サナエさんは座布団を敷いたりお茶を配ったりし、集会中はカーテンを使って部屋の隅に作った個室で家計簿をつけています。

 集会で熱心に意見を語るのはノブオさんと同い年で隣の部屋に住む伊出さんです。ある日の夜、夫婦の部屋の真上で音がします。それは上の階に住む田中さんの夫婦喧嘩で、伊出さんの話では三月に1回はあるそうです。今回は、喧嘩の際に放り投げられた男物の下着が、伊出さんの部屋のベランダにひっかかっていたそうです。伊出さんは楽しみを分けてあげたというような顔をしながら、サナエさんに下着を託します。

 しかしサナエさんもノブオさんも躊躇し、託された下着を田中さんに届けません。二日後に反応を尋ねてきた伊出さんに届けなかったとノブオさんが答えると、伊出さんは機嫌を損ね、ノブオさんの担当していた集会用の名簿を明日までに作成するように、と嫌がらせします。

 夫婦はその日、夜通しガリ版を刷り、名簿がすり終わった頃には明け方でした。夫婦はベランダに腰掛けて、明かりがついている向かいの工場を眺めます。何十年もたったときにふと、今のことを思い出したりするだろうかと、二人で同じことを考えます。

病気になったトモコさん

 病気になって入院してしまった小学生トモコさんが、入院中の1日に見た物事や風景、思い出したことや連想をトモコさん自身の視点から描きます。トモ子さん自身の姿は見えません。

 夜、消灯したのち、窓の外で看板の灯りが次々と灯るのを目にするトモコさんは、高架を走る電車の中から病院を覗いている自分の姿を幻視します。

バスで四時に

 婚約者の家に初めてひとりで訪れるマキコさんが、バスで彼の家に着くまでに考えることを描きます。

 お土産の8個のシュークリームは向こうでどうやって分けるのか、バスの座席を止めている大きなねじを回すのにはどれくらいの力がいるのか。

 この訪問に不安を抱くマキコさんは、停車駅を間違え、行かないで済む方法は無いかと到着直前に考えるものの、その家の前で笑顔の婚約者に出迎えられます。

私の知ってるあの子のこと

 ピアーニは裕福な家の子で、兄弟と仲良く、両親にも愛されている女の子です。一方クラスメートのジャーヌは、貧しい家庭で素行も悪く、みんなに嫌われています。

 しかし実はピアーニはジャーヌのことをうらやましく思います。ピアーニはジャーヌを見習って、行儀の悪い行いをこっそりとためします。

 アップが使われず、俯瞰気味のロングショットで描かれます。

東京コロボックル

 主人公は赤羽生まれの女性コロボックルです。2年前に落合に引っ越してきて、今は人間のヨータロー、ツボミ夫婦の家にいます。

 住まいはテレビの中で、台所もお風呂も電化されています。米一粒がご飯一膳、おかずはヨータロー夫妻の食卓から盗みます。仕事はツボミさんと同じ陸運関係で、オフィスもツボミさんの勤めるオフィスの、置き忘れられた紙袋の中にあります。

 アウトドア派の彼氏は同じ部屋の換気ダクトにいて、カエルを狩って皮製品をプレゼントします。デートは畳のうえでの日向ぼっこや、洗濯機を使ったプールです。

 ある日、ヨータロー夫妻は仕事をやめて田舎に帰ることになります。困ったコロボックルは、彼氏とともに夫妻についていきそこで結婚、田舎での生活を始めます。

奥村さんのお茄子

「1968年6月6日木曜日 お昼なに食べました?」と、 食事処でご飯を食べていた奥村さんは、後ろに座っていた女性に突然話しかけられます。1968年といえば25年前、奥村さんは19歳で「石浜モータース」の従業員でしたが、相手はなぜかそれを知っています。

 その女性をやり過ごし帰宅した奥村さんですが、そこに先ほどの女性が押しかけます。「遠久田」と名乗る彼女によれば、彼女は未知の生物で、姿もただ人間の女性の形に「整形」しているそうです。そして自分の先輩への疑惑を晴らすため、25年前の6月6日に、奥村さんが食べた昼食の内容を明らかにする必要があると語ります。

 25年前のその日、醤油瓶に偽装した「先輩」が奥村さんの昼食をビデオ(うどん型)に撮影していたことが判明します。奥村さんはビデオを見せられると、その日は昇給試験の日で、食堂の時間に間に合わずに持参した弁当を食べたことを思い出します。さらに壁に映っていたカレンダーからその日が6月6日だとわかり、「先輩」の疑惑は晴れます。

 その後、遠久田と先輩の真の目的は、毒入り茄子の生体実験だったことが明らかになります。「先輩」のミスから毒入り茄子を免れていた奥村さんですが、遠久田は先輩のために、奥村さんに25年前茄子を食べたと偽証してほしいと頼みます。そして偽証のために、25年前の6月6日に食べた茄子の味を思い出すよう頼みます。

 覚えていない、と憤る奥村さんに遠久田は、奥村さんのその後の人生は、その食べたことを覚えてもいない茄子の続きだ、と諭します。

 そしてビデオの端のほう、窓の外に写っていた6人の人物の行動を再現し、その日奥村さんが確かに茄子を食べたことを証明しようとします。

 最後は「かわいいコックさん」の歌をバックに、25年前の一瞬の光景が再現されます。

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