はじめに
楳図かずお『漂流教室』解説あらすじを書いていきます。
演出、背景知識
ロビンソナーデ
本作は、全体的に『ロビンソン・クルーソー』風の漂流物語(=ロビンソナーデ)で、特にそのジャンルにおいてヴェルヌ『十五少年漂流記』、ゴールディング『蠅の王』の影響がうかがえます。
全体的なテーマとしては『十五少年漂流記』に近く、最後にメンバーの一人が自分の行動が漂流の原因になったことを告白するプロットもそれと共通です。また、少年たちがヒューマニズムを体現するというコンセプトもそこから継承しています。
他方で本作は、そうした少年や人間の理想的姿を描くばかりではなく、少年同士の血みどろの抗争や殺人をも描き、このあたりはゴールディング『蠅の王』と重なります。とはいえ、ゴールディング『蠅の王』の意図がポストコロニアルな風刺にあるのに対して、『漂流教室』のテーマは少年たちが背負い体現するヒューマニズムです。
ポストアポカリプス
本作はアポカリプスもの、ポストアポカリプスものジャンルです。
大規模な戦争、自然災害、疫病、異星人、機械生命体などにより、文明や人類が死に絶えるまでを描くものをアポカリプスもの、ほとんど死に絶えた後の世界を描くものをポスト=アポカリプスものと言います。
本作は、ポストアポカリプスもので、ふとしたことから主人公翔たち小学校の生徒と教師らは、小学校もろとも荒廃した未来の地球へと漂流します。
物語の中で、やがて翔たちは、自分たちは過去から未来へと、未来に蒔かれた種としてやってきたのだからここに留まる使命があると結論づけ、皆を説得し、それが作品の中心的テーマになっています。
物語世界
あらすじ
高松翔は、大和小学校の6年生。ある日、翔は母親とケンカをして学校に行き、授業中に激しい地震に襲われます。揺れは収まるものの、学校の外は岩と砂漠だけの荒れ果てた大地になっていました。
突然の出来事に皆パニックになり、教師たちはみな亡くなってしまいます。やがて荒廃した世界の正体が、文明の崩壊によって滅んだ未来の世界だと知った子供達は、大和小学校を拠点とした「国」を築こうとします。大和小学校国の総理大臣として児童の代表となった翔でした。
しかし、飢餓、狂気、内部対立、伝染病、唯一生き残った大人である関谷の暴走、荒廃した未来に棲息する未来人類の襲撃により、児童たちの数はへっいていきます。また学校をタイムスリップさせる原因となった手製のダイナマイトによる爆発事件の犯人が翔であったと噂が流れ、翔は次第に孤立します。
翔と過去の世界を繋ぎ止めていたのは5年生の少女西あゆみのもつ不思議な力で、時空を超えて母とコンタクトを取れました。息子の帰還を信じる翔の母は、西の力によって未来にいる翔と仲間達を手助けしようとします。
その後、自ら学校を出て行った後、瀕死で戻ってきた女番長から「天国」のことを知らされた翔たちは、高濃度の光化学スモッグの雲から逃れるため、富士山にある「天国」を目指して荒野を進みます。
しかし翔たちがやっとたどり着いた「天国」は、未来の科学力で築かれたレジャーランドの残骸でした。暴走したロボットから逃れた翔たちは、そこのコンピューターから、自分たちが元の世界に戻るための重要な糸口が大和小学校だと知ります。
しかし、飢餓と翔を疎む同級生の大友らのグループとの抗争がエスカレートし、子供達は殺し合いを始めます。翔は自分が爆発事件の犯人だと告白するふりをしてみんなを誘導しつつ学校に戻り、今こそ元の世界に帰る最後のチャンスだと説得しようとします。しかし、大友たちは翔を殺そうとします。
翔が殺されようとした時、大友は翔を庇い、ついに真相を打ち明けます。大和小学校を未来に飛ばすことになった大地震は、優等生としての苦悩から校舎を吹き飛ばそうとして自分が仕掛けた手製のダイナマイトが原因だったこと、罪悪感から翔に責任を押し付けていたことを話します。翔は大友と和解し、再び友情を取り戻します。
強大なエネルギーの発生によって次元の裂け目を生み出すことが、「天国」のコンピューターが語った、過去に帰る手段でした。そのために大友のダイナマイトの最後の1本を爆発させるものの、失敗します。爆発の影響で火山活動が活発になってきたことを利用するも、これも上手くいきません。
そんななか翔たちが見たものは荒れ果てた世界に見えた、命の再生の片鱗でした。それに翔は、荒廃した世界の再生こそ自分たちの使命だったと結論付け、ここに留まるべきだと語ります。そして、過去の世界から母親により送られてきた援助物資により、過去と未来の世界に繋がりが生まれたことに希望を見出した翔たちは、爆発に巻き込まれ一緒に未来に来た幼稚園児のユウちゃんを過去の世界に送り届けようとします。ユウちゃんは、未来の地球を絶対に荒廃させないよう努力することを翔たちに誓い、過去の世界へと帰ります、
翔が未来に来てから書き綴ってきた日記はユウちゃんの手から翔の母親へと手渡され、それによって未来と過去を繋ぐ架け橋が生み出された。未来の世界で息子が元気に生きていることを知った翔の母は、天を見上げて未来の世界への希望に想いを馳せるのだった。
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