藤子・F・不二雄「気楽に殺ろうよ」解説あらすじ

1970年代

始めに

藤子・F・不二雄「気楽に殺ろうよ」解説あらすじを書いていきます。

背景知識、作風

スウィフト的異世界冒険譚

 本作は、スウィフト『ガリヴァー旅行記』、バトラー『エレホン』、芥川『河童』などのような、異世界冒険譚になっています。

 そうした作品と同様に、主人公が未知なる世界を探検し、その独特の道徳や文化に感化され、既存の価値観が突き崩される姿を描きます。

 本作では、主人公の河口という会社員の男が夢の世界で殺人が権利として認められ、性と食に関するタブーが逆転しているのを目の当たりにし、精神科医の論説にその文化の構造に関して納得させられてしまい、異世界の夢から覚めたあとで同僚を殺そうとしてしまう姿を描きます。

道徳の相対性

 本作がテーマにするのは、道徳の相対性です。その点では『ミノタウロスの皿』『流血鬼』と同様です。

 メタ倫理学における立場として、非認知主義(道徳的命題は真偽値を考えられるものではない、という立場)があり、そのなかに相対主義(道徳的判断は文化や文脈に依存する)という物があって、本作はそれの極端なものと親和的です。

 本作では、夢の世界で性と食のタブーが逆転していて、殺人が権利として認められている倒錯した規範が広まっていて、それがなぜ合理的であるのかを、主人公は精神科医に説得された結果、異世界の夢から覚めたあとで、ライバルを殺そうとしてしまいます。

物語世界

あらすじ

 月曜日の朝。いつもの時間に目覚め、顔を洗い、新聞の朝刊を取ろうとした時、河口の背中に激痛が走ります。5分ほどで発作はおさまったものの、違和感が残ります。

 河口は診療室内のベッドに横たわり、上記の話を話をしたあと帰ろうとしたところ、医師に説得され話を続けます。妻に大声で朝食の催促をしたところ「近所に聞こえる」と赤い顔で窘められたこと、朝食を食べる際に妻がカーテンを閉めて電気を消すこと、月曜日が休日なこと、娘が読む絵本にシンデレラと王子のベッドシーンが描かれていること、駅のホームで学生服姿のカップルが自分の赤ん坊をゴミ箱に投げ捨て、ベンチですぐに新しい赤ん坊を作ろうとすること、河口の友人がその妻に出刃包丁で惨殺されたが周囲は平然としていること、殺人の権利書を百万円で譲って欲しいという男が家に来たことなどを、精神科医に伝えます。精神科医は、河口の疑問に論理的に反論し、納得させます。やがて河口は妄想から開放されたと感じ、妻と帰宅します。

 その晩、河口はライバルで同僚の海野が自分を殺したがっている噂を聞き、海野を殺害することを決めます。

 翌朝、ナイフを握り、息巻く河口は出勤します。弁当を手に呼び止める妻の声に気づかず、飲食店が立ち並ぶ駅までの道を進みます。

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