始めに
岩明均『七夕の国』解説あらすじを書いていきます。
背景知識、作風
ニューエイジSF
本作はニューエイジ思想の影響が大きいです。
ニューエイジは近代のオカルティズムで、神智学や心霊主義をルーツにし、人間の潜在能力の無限の可能性の強調、宇宙などの大いなるものとのつながり、個人の霊性の向上、汎神論、エコロジー思想などを特徴とします。
本作では、異次元への入り口を作る超能力が現れ、その能力が宇宙人の力により発現します。
進化論SF
本作は人類の進化を描く進化論SFです。
進化はSF作家にとって初期から切実なテーマで、ウェルズ『タイムマシン』も、ダーウィンの『進化論』の帰結としての非目的論進化論のもたらす帰結としての、人類の後退の可能性への憂慮が作品の背景としてあります。
本作の進化論SFとしてのニュアンスは、どちらかというとダーウィン以前のラマルクの目的論的進化論と近く、その点ではクラーク『幼年期の終わり』などとかさなります。
本作では進化に介入する異次元からの存在であるカササギというものが現れます。地球の丸神の里にある日異種族「カササギ」が現れ、その影響が里の人間に宿っていて、彼らは異次元と現実をつなぐ窓を作れます。そしてそうした「手がとどく者」は能力を使いすぎると、どんどんカササギに近付き異形になってしまいます。
このあたりの設定は最後まで伏せられていて、それがサスペンスになっています。
物語世界
あらすじ
「あらゆるものに小さな穴を開ける」という超能力のような特技を持つ大学生南丸。幼い頃、祖父から教わった力のおかげでした。この何の役にも立たない能力を持てあまし、大学4年生になっても就職活動もろくにせず呑気に毎日を過ごしています。
そんなある時、同じ大学の民俗学教授・丸神正美から呼び出しを受け、研究室を訪ねます。丸神は不在でしたが、研究室のメンバーと交流を重ねるうち、丸神も自分と似た能力を持つらしいこと、丸神家と南丸家が東北地方のある豪族を共通の祖先にもつ可能性があること、当地の合戦場跡から穴の開いた甲冑や人骨が見つかっていることなどが分かります。
同じ頃。かつて「丸神の里」と呼ばれたその土地、現在のA県丸川町において奇妙な殺人事件が発生します。頭部が大きなスプーンで抉られたような死体だったことから注目され、ワイドショーでも取り上げられます。自分の力と関係があるのかと気になった南丸は、失踪した丸神の消息をつかむ目的を兼ね、研究室のメンバーと共にその町を訪れます。
その後、メンバーの一人の江見は丸神の里にひとり残り、丸神教授の捜索を続けます。一方、東京に戻った南丸たちの前に、幸子の兄高志が現れます。ナン丸と同じ力を持つ高志の手ほどきによって、徐々に力を使いこなせるようになる南丸ですが、高志は、丸神の里の掟を破り、力を悪用し、八木原とともに金儲けを企んでいました。
高志の妹幸子は祖母と生活しているものの、高志と幸子の父和彦と母由紀子はすでに亡くなっています。現在、丸神の里は、幸子や高志の大叔父にあたる当主東丸隆三が治めています。そんななか、参議院議員が衆人環視の下、 正体不明の巨大な丸によって、人体がえぐられるという奇怪な殺人事件が発生します。現場近くでは、目深に帽子を被る怪しげな人物が目撃されていました。
江見ら丸神ゼミの面々は、丸神の里の七夕祭が、季節外れの6月に行われる謎についてリサーチしていました。また丸川町では、かつて村を去った元神官丸神頼之が姿を現します。頼之は幸子に一連の殺人事件の犯人が自分だと告白します。その後、頼之は武器商人である増元とともに、政財界を操るフィクサーである“先生”を訪問します。自分のことを化け物扱いしながら、その能力を利用し、富と権力を追い求める“先生”に対し、頼之は「あんたのほうがよっぽど化け物」と言います。
一方、南丸も自分が金儲けの道具にされていたと知り、高志と八木原と距離を置きます。そんなとき、偶然、車のなかに閉じ込められた少年を救出したことで、マスコミにより南丸の能力が世間に知れます。南丸の額の赤いできもののようなものも、いままで以上になります。
この騒動に高志と八木原も乗じるものの、目に余る愚行に、幸子ら丸川町の住人が、東京に乗り込みます。そこで幸子は江見に詫び、行方不明になっていた丸神教授が丸川町に滞在していることを認め、丸神教授から江見宛の手紙を手渡します。
八木原が謎の失踪を遂げるなか、ついに高志は故郷の人々と対面し、口論になります。この騒ぎを、圧倒的な力で制圧したのが、頼之でした。あくまで能力は使い方次第だと前向きな南丸に対し、幸子は否定的で、自らの背中に刻まれた傷を南丸に見せます。
幸子は過去を語ります。高志と幸子の母親由紀子は、高志の手がとどく者としての能力を開花させるため、本家丸神家の頼之に修行を依頼しました。息子が頼之に心酔する姿を、父和彦は快く思わず、高志を虐待し、そのストレスのはけ口として、高志は幸子を傷つけていました。そして、ある日、高志が力で、和彦に瀕死の重傷を負わせてしまいます。それが原因で高志は里を追われ、責任をとって、由紀子も自殺したのでした。
その頃、丸神ゼミの面々は、丸神教授から届いた手紙をヒントに、丸神の里で6月に七夕祭りが行われる理由を突き止めます。
頼之は暴走し、トラック、豪華客船、飛行機の消失と、次第に行動をエスカレートさせていきます。自分の目の前で、官房長官を消し去った頼之に対し、高志が理由を尋ねると、頼之は人の心に土足で踏み込んだ挙句、今度は知らん顔をしている者への復讐だと言います。
その後、頼之と高志も東丸家当主に接近します。頼之が「悪夢を終わらせる」という変わらぬ野心を表明すると、その言葉に、東丸隆三は何かを悟ります。しかし頼之らの足取りが警察につかまれており、増元率いる特殊部隊に囲まれ、東丸隆三ら多くの犠牲者が出る銃撃戦となります。高志も銃弾を受けて、命を落とします。死の直前、高志は頼之に対しても、妹幸子への謝罪の言葉を口にします。
現場の混乱が静まった頃、幸子は、兄の遺体と対面し、精神的に混乱します。一方、江見は東丸邸に残された、頼之の6本指の手形が、鳥のカササギに酷似していることに気付きます。丸神の里に伝わる旗に描かれているのが、カササギだったのでした。
状況が混乱する中現れたのが、長らく行方不明になっていた丸神教授でした。その額には能力者の証が刻まれていました。丸神教授は、自分と同じ丸神姓を持つ頼之の真の目的が丸神山だと語り、里の未来に新たな指針を示します。そして、南丸や丸神ゼミの面々を住居兼研究施設に招待すると、これまでの状況について解説します。
丸神教授の説明によれば、丸神の里にはある日異種族「カササギ」が現れ、その影響が里の人間に宿っているそうです。そして「手がとどく者」は能力を使いすぎると、どんどんカササギに近付き異形になってしまいます。 カササギになってしまった頼之の目的は、みずから生み出した球体に丸神山の山頂ごともっていかれて、「新しい世界」に行くことでした。頼之は、再訪を待つ里の人々の期待に応えようとしない知らん顔をしている者であるカササギを恨み、悪夢を終わらせるために丸神山を消滅させようとしていたのでした。
ついに南丸たちの前に現れた頼之は、自らが生み出す巨大な丸に身を投じようとします。そして、幸子もその後を追うものの南丸がとどめ、頼之のみが向こうへ向かいます。
こうして丸神の里と超能力をめぐる騒動は幕を閉じるのでした。
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