山本英夫『殺し屋1』解説あらすじ

1990年代

始めに

山本英夫『殺し屋1』解説あらすじを書いていきます。

背景知識、作風

サイコサスペンス

 本作はサイコサスペンス、サイコスリラージャンルです。

 この手のジャンルにはヒッチコック監督『サイコ』、デミ監督『羊たちの沈黙』など、先駆となった作品が多くありますが、いずれも精神分析などを参照に、内的世界の混沌、性的逸脱をうまくサスペンス、スリラーと絡めた展開が特徴です。

 本作では、標的を残虐に殺すサディストの殺し屋「イチ」を抱えるジジイら歌舞伎町の「はぐれ者グループ」と、マゾヒストのヤクザ「垣原」の暴力団・垣原組との抗争を描き、特にイチと垣原、ジジイが主人公格です。

 垣原の抱える倒錯とイチの抱える倒錯が衝突するさまが見どころです。

サイコホラー

 全体的に本作は、サイコスリラーであるのに加え、サイコホラー的なグロテスクな表象に満ちています。

 いじめによってトラウマを受け、フラッシュバックによって暴走し対象を残虐に殺すイチの設定は、サイコホラーの井上『隣人13号』を連想します。

ラブコメディ

 他方で本作は、シュルレアリスムのルーツとなったサドのような、グランギニョルな装いの艶笑コメディとなっています。

 イチのサディズム、垣原のマゾフィズムなど、物語には多様な性的嗜好や妄想、信念を抱えたキャラクターたちが豊富に描かれ、それが交錯していきます。

 暴力描写は苛烈ですが、独特の硬直化の笑い、シュールな笑いがあって、山口『シグルイ』や『バキ』シリーズを連想します。

物語世界

あらすじ

 欲望の街、新宿歌舞伎町。この街にある、入居者の8割が暴力団関係者という集合住宅、通称ヤクザマンションが物語の舞台です。

 組織を破門された「はぐれ者」を率いる謎の男「ジジイ」は、仲間とヤクザマンションでも特に危険な武闘派暴力団「安生組」の壊滅を計画します。そして殺し屋「イチ」を使って組長の安生芳雄とその愛人を殺害し、部屋の金庫から3億円を盗みます。

 「イチ」こと城石一は、ジジイがマインドコントロールで殺し屋にした青年で、気弱な性格であるものの、学生時代にいじめを受けたトラウマが蘇ると、子供のように泣き喚きながら相手を惨殺します。

 安生組の若頭である「ピアスのマー坊」こと垣原雅雄は、安生を消した犯人がジジイ一派と殺し屋「イチ」だと知り、報復を図ります。しかし、ジジイの誤情報にだまされ、船鬼一家の鈴木を拷問にかけて重傷を負わせたため、垣原は上部団体の三光連合から絶縁されます。

 垣原はそこで自ら「垣原組」を立ち上げます。ジジイは鈴木から垣原組壊滅の依頼を受け、「イチ」はジジイに指示され、垣原組のヤクザを殺していきます。

 はぐれ者グループと垣原組の抗争の中、避難するようにヤクザたちは次々にヤクザマンションと垣原組から離れます。しかしマゾヒストである垣原はイチのサディズムに惹かれ、イチとの邂逅を心待ちにするようになります。

 イチは風俗嬢セーラに惹かれ、彼女にDVを加えていた夫を殺したものの、事故のような形でセーラも殺めてしまい、一時期殺人のスランプになりますが乗り越えます。また、垣原組の金子と親しくなり、人間らしい繋がりを得ます。

 しかしイチと垣原の二人はヤクザマンションで出会い、殺しあうことになります。そのさなか、ジジイの策略で信頼していた金子を暴走したイチが殺し、垣原との戦いのすえ、イチは垣原を殺します。

 3年後。ジジイは変わらず、新宿を廃墟にするために策略を巡らせており、金子の息子タケシを洗脳して殺し屋にしています。一方、イチは新宿という街の欲望に飲み込まれ、そうして妄想とマインドコントロールによる支配から逃れ、普通の青年になっていました。しかし最後は歌舞伎町で些細なことからヤクザに絡まれ、イチの泣き顔(殺し屋としての復活を示唆)とともに物語は終わります。

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