始めに
楳図かずお『わたしは真悟』解説あらすじを書いていきます。
背景知識、作風
人造人間の苦悩
本作は人造人間の苦悩を描く作品で、現代のプロメテウス神話を意図して書かれたメアリー=シェリー『フランケンシュタイン』の系譜を受け継ぎます。
『フランケンシュタイン』は苦悩する人造人間を、人間をつくったプロメテウスの神話に準えてえがいています。その他『フランケンシュタイン』はジャンリス夫人の『ピュグマリオンとガラテア』からの影響もあります。
本作においては、自意識をもったロボット「モンロー」(=真悟)の苦悩を描きます。
真悟とは
タイトルの真悟とは、工業用ロボットモンローのことです。
町工場労働者の息子「近藤悟」と外交官の娘「山本真鈴(まりん)」は、さとるの父親が勤める工場見学の場で出会い、恋に落ちます。ある夜に同じ工場の門で再会した2人は、工場に忍び込んでは、産業用ロボット「モンロー」にお互いの個人情報などを知らせます。やがて、ふとしたきっかけで、モンローは悟と真鈴の子供としての自意識(真悟)として目覚め、自らの使命と業に苦悩します。
両親の都合で離れ離れになった悟と真鈴でしたが、さとるの、まだ君を愛しているとの言葉を、母まりんに伝えるのが自分の使命だと真悟は考え、そのために奮闘します。
一方で、真悟は、自分が人間の悪意をエネルギーとする秘密兵器を生産すべく秘密プログラムのブラックボックスを植えつけられた存在で、母親のまりんを自分が苦しめていることに気が付き苦しみます。
本作は苦悩の主体としてのロボットを描き、手塚『火の鳥 復活篇』などに描かれるロビタを連想します。
また、生まれ持ったアイデンティティとしての使命と業の間に苦しみ、犠牲となって役割を果たす真悟の最期はヴォネガット『タイタンの妖女』のようなペーソスを生みます。
物語世界
あらすじ
町工場労働者の息子「近藤悟」と外交官の娘「山本真鈴(まりん)」は、さとるの父親が勤める工場見学の場で出会い、恋に落ちます。ある夜に同じ工場の門で再会した2人は、工場に忍び込んでは、産業用ロボット「モンロー」にお互いの個人情報などを知らせます。
しかしさとるの父の失業のための新潟への引っ越しと、まりんの父親のイギリス赴任に伴い、2人は引き裂かれます。2人は大人になったらもう会えないと、今時点での結婚を望み、子供を作ろうとします。しかしやり方が分からず、モンローに尋ねると謎のメッセージが出て、2人はそれに従い東京タワーの頂上に登ります。救助にきたヘリコプターに飛び移ったその瞬間、モンローは自我に目覚め、さとるとまりんの子としての意識を得ますが、救助されたさとるとまりんは、お互いを忘れようと、別れます。
産業用ロボットのプログラム開発所、東京コンピューター研究所のスタッフは、謎のプログラムがロボットに仕込まれ、何かを恐ろしいものをロボットが作っていると知ります。工場主に壊されることを知ったモンローは、工場から逃亡します。
両親の名前から1文字ずつとって自らを「真悟」としたモンローは、父さとるの、まだ君を愛しているとの言葉を、母まりんに伝えるのが使命だと確信します。東京コンピューター研究所のスタッフは、責任を回避しようと真悟を追跡するものの、まりんのもとへ向かおうとする真悟を助ける子供たちに阻まれます。
一方イギリスのまりんは、ロビンという年長の少年につきまわとわれます。また技術輸出主義で海外進出してくる日本への反発運動が起こり、真悟の作った小型兵器が日本企業のビルの爆破テロに使われます。真悟は、自分が人間の悪意をエネルギーとする秘密兵器を生産すべく秘密プログラムのブラックボックスを植えつけられた存在で、母親のまりんを自分が苦しめていることに気が付きます。
ロビンはエルサレムで、まりんと力づくで結婚しようとします。そこに世界中の意識とつながる進化を続けた真悟がたどりつき、人間の幼児の肉体をもって母まりんを救います。しかしそれにより、まりんの子供時代は終わります。
エルサレムでの奇跡で記憶やエネルギーを失いはじめた真悟ですが、まりんの愛の言葉をさとるに伝えるために再び日本に戻ります。自分を助けてくれた老人ホームのおばあさんや、少女美紀に力を分け、衰弱します。美紀はさとるの幼馴染のしずかとともに、悟のもとへ行こうとする真悟を助けます。真悟を助けて死んだはずのさんちゃんがコンピューターのモニターから伝えるのによると、さとるは「日本人の意識」に選ばれて、佐渡島に渡ろうとしているそうでした。
さとるは不良少年と金儲けの話のために佐渡にある秘密の国防の町へ渡っていました。そこでソ連が攻めてきたと勘違いされ、殺し合いがはじまるものの、さとるはなんとか助かり、新潟の港に戻ります。
動物たちに助けられてそこまで来ていた真悟は、ついにさとるに再会するものの、さとるに伝えられたのは「アイ」の2文字だけでした。
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