始めに
始めに
今日は大友克洋『AKIRA』についてレビューを書いていきます。
スタイル、背景知識
メビウス流のリアリズム
大友克洋といえば、その圧倒的に緻密なリアリズムが特徴です。バンドデシネのメビウスなどからの影響が顕著で、迫力には圧倒されます。
フォロワーの吉田秋生(『BANANA FISH』)などはもっと少ない端正な線で描写しますが、大友の背景などの描き込みは本当に圧巻です。筆力という点では宮崎駿に匹敵する才能です。
テクノワール、無国籍
ジャンル的にはテクノワールに当たるような内容で、アラン=ドワンを継承する岡本喜八、あるいは鈴木清順のフィルムのような、無国籍でドライなピカレスクが見どころです。大友が好んだリドリー=スコット監督『ブレードランナー』と比べても、演出の完成度は高いです。
また大友克洋のアラン=ドワンや東宝、日活のモードを継承する無国籍なムードは、松本大洋『鉄筋コンクリート』などへと受け継がれます。
作家主義的内容。サスペンスは下手
ただ、大友克洋はプロットの因果的連なりをデザインしたりすることは苦手だと思っています。本作も「アキラ」の正体をめぐるサスペンス、ミステリーっぽい含みも有耶無耶になっています。浦沢直樹の作品と一緒で、画力でフォローしているけどオチまで考えてないで引き延ばしている印象は強いです。
また宮崎駿の 『もののけ姫』以降の作品に近く、すでに完成されたスタイルを持った作家があるジャンルにコミットしつつ、自分の好き勝手やっている感じがあって見応えはあるのですが、それこそ後期黒澤明(『影武者』)や後期ヒッチコック(『鳥』)などのように、完成度としてはどうなのかというのと、やりたいことはわかるけれどあんまり上手くいっていない感じがあります。
旧友の変節のドラマ
本作品はチミノ監督『ディア=ハンター』のような、旧友の変節を描くドラマになっています。そうした要素は岸本『NARUTO』などへと受け継がれます。
戦争機械としての若者たち。アメリカの影
本作は村上龍(『コインロッカー=ベイビーズ』『限りなく透明に近いブルー』)の作品にも似て、アメリカ基地のある土地でアメリカの影を描きます。
アメリカ流の超越主義的価値観を身につけたバッドボーイたちがアメリカ、日本といった権力、システムに反逆する戦争機械として生きるあり方を描きます。
ニューエイジSF
本作はニューエイジ思想の影響が大きいです。このあたりは『童夢』と同じです。
ニューエイジは近代のオカルティズムで、神智学や心霊主義をルーツにし、人間の潜在能力の無限の可能性の強調、宇宙などの大いなるものとのつながり、個人の霊性の向上、汎神論、エコロジー思想などを特徴とします。
タイトルになっているアキラも、政府の計画によって目覚めた、宇宙が究極の状態を目指して進む「流れ」に介入して曲折をもたらす「能力」を持った存在です。やがて悪役の鉄雄とアキラはその力と力を衝突させて、ビッグバンを引き起こし、新しい宇宙を誕生させます。
新宇宙に引き込まれそうになる主人公の金田でしたが、ヒロインのケイの愛の力によってもとの宇宙にとどまらせられます。
カタストロフを経て、日本は焼け跡になったものの、鉄雄やアキラがもっていた新時代や新宇宙を作り出すようアナーキーなエネルギーは金田たちの中に生きていて、それが作品のオチになっています。
ポストアポカリプス
本作はアポカリプスもの、ポストアポカリプスものジャンルです。
大規模な戦争、自然災害、疫病、異星人、機械生命体などにより、文明や人類が死に絶えるまでを描くものをアポカリプスもの、ほとんど死に絶えた後の世界を描くものをポスト=アポカリプスものと言います。
本作では世界全体が滅亡するのではなくて、日本が壊滅状態になります。けれども焼け跡から生き残ったAKIRAの魂を継ぐ若者たちは、戦後日本のようなエネルギーをたたえています。
物語世界
あらすじ
2019年。東京湾には新首都「ネオ東京」が建設されています。かつての東京、「旧市街」でも、2020年の東京オリンピック開催を機に、都市再開発が進められていました。
職業訓練校生・金田率いるバイクチームの少年たちは、「爆心地」付近で老人のような少年と出会います。彼はアーミーの研究機関「ラボ」から、反政府ゲリラによって連れ出された実験体・タカシでした。チームのメンバー・鉄雄は、避けようとして事故を起こします。鉄雄は治療のためタカシと共にラボに連れ去られ、タカシとの接触をきっかけに超能力が目覚めます。退院し学校に戻ってきた鉄雄は、以前とは別人で、敵対する暴走族のメンバーを殺しかけ、止めに入った金田に反抗します。
ラボの病院を脱走した鉄雄はクラウンのアジトに乗り込み、能力でメンバーを殺害し、リーダーのジョーカーを屈服させて新たなリーダーになり、他の暴走族へ攻撃します。金田はクラウンに対して、他の暴走族と糾合して反撃を目指します。
バイクチーム同士の抗争が起こるものの、金田たちは鉄雄の前に敗れます。鉄雄はかつての仲間であった山形を金田の目前で惨殺し、金田に拳銃で撃たれます。
そこへアーミーの部隊が到着します。能力にともなう頭痛に苦しむ鉄雄に対し、大佐は研究機関への帰還を促し、彼に「41号」と呼びかけます。
バイクチームの抗争はアーミーに制圧され、鉄雄、金田、ケイらは大佐によってラボが入る超高層ビルに連行されます。そこにはタカシ、キヨコ(25号)、マサルという、先の世界大戦以前の極秘研究プロジェクトで能力を開発された、老人のような顔をした子供たち「ナンバーズ」もいました。薬物を投与されながら能力を開花させつつあった鉄雄は、研究の核心にある「アキラ(28号)」に強い関心を持つのでした。
かつてナンバーズの子供たちの仲間であったアキラは、政府が封印し続けている、謎の存在でした。一方、ラボを訪れた大佐に対して、予知能力を持つキヨコは、アキラの目覚めとネオ東京の崩壊が間もなく起こることを告げます。
キヨコはケイを能力で操り、アキラを探る鉄雄を止めようとするものの、鉄雄はラボを逃げ出して旧市街に向かい、爆心地に建設中のオリンピックスタジアムの地下に隠されたアーミーの極秘施設を襲撃します。大佐らの説得に耳を貸さず、鉄雄はアキラを目覚めさせ、連れ出します。
大佐は非常事態宣言を発令させ、軍事衛星「SOL」によるレーザー照射でアキラと鉄雄の殺害を図ります。鉄雄は攻撃を受けて右腕を失い、アキラはケイと金田によって保護されます。
アキラを巡って、アキラを特別な存在と考えるミヤコの教団と、アキラを取り返そうとするアーミーの争奪戦が始まります。ケイたちからアキラを預かった野党党首の根津は、支持母体の長であるミヤコを裏切り、部下のゲリラも切り捨てアキラを利用しようとするものの、ケイや竜、チヨコ、金田らは根津の手先から逃げ延び、アキラを連れ去ります。
一方、アキラ争奪戦における非常事態宣言発令の混乱の責を政府に問われた大佐は、クーデターを決行します。ネオ東京に戒厳令を敷いてアーミーの大部隊を出動させ、アキラを捜索します。
根津の私兵、ミヤコの教団が独自に育成した能力者、大佐率いるクーデター部隊、金田たちによるアキラ争奪戦は、早朝の運河で金田らがアーミーに追い詰められたことで幕を閉じます。大佐の連れてきたナンバーズの子供たちがアキラの元に集まるものの、アキラを射殺しようとした根津の弾丸がタカシの頭に当たります。ナンバーズやアキラたちの脳内に衝撃が走り、それを引き金にアキラは37年前に東京を壊滅させた能力を発動します。
アキラを中心に現れた光が拡大してビル群を飲み込み、ネオ東京のあらゆる建物が崩壊します。ケイや大佐らはナンバーズの子供たちによる瞬間移動で難を逃れたものの、金田は光に飲み込まれ行方不明になります。
ネオ東京の崩壊後、アキラの前に、SOLによる攻撃を生き延びていた鉄雄が現れます。
廃墟となったネオ東京は完全な無政府状態となります。鉄雄はアキラを「大覚」に祭り上げ、被災者を集めて「大東京帝国」をつくります。
鉄雄は被災者への食料に薬物を混ぜ、帝国の構成員にも薬物を投与して能力者を育てます。一方、ミヤコの教団は被災者に食糧や能力による治癒を与えて勢力を築いており、ケイらゲリラの生き残りも、薬物欠乏に苦しむナンバーズらと共に教団にいます。
ネオ東京の廃墟ではSOLの発射ボタンを持って単身で鉄雄に挑む大佐、ジョージ山田率いるアメリカ海兵隊特殊部隊、ゲリラの生き残りである竜のグループが、大東京帝国と対峙します。
鉄雄は「隊長」が集めてきた少女たちに致死量の薬物を与え、セックスに浸ります。一人の少女が薬物を家族に持ち帰ろうとして飲まなかったため生き残ると、鉄雄はその少女カオリを侍女とし、依存していきます。
鉄雄はアキラをいぶかしみ、アキラの心の中を覗いてショックを受けます。アキラとは何なのかを問うため、鉄雄はミヤコの下を訪れます。ミヤコはプロジェクトのことを語り、アキラに近づけるのは鉄雄しかいないといいます。
ナンバーズとミヤコの教団のつながりを掴んだ隊長は鉄雄に指示を請うものの相手にされず、独断で兵を率いてミヤコの教団と激しい戦闘となります。薬物摂取を止めて苦しむ鉄雄は、大佐が再び放ったSOLのレーザーに刺激され、能力の爆発的覚醒を起こして空中へ飛翔し、光を集めます。
光の中から、ネオ東京崩壊時にアキラの球体に飲みこまれたビルの残骸が出現して地上へ落下し、そこに金田の姿もあります。
ケイや甲斐、ジョーカーらと再会した金田がネオ東京崩壊以後の状況を理解した頃、大東京帝国はミヤコ教の勢力に危機感を持ち、士気を高めるためにオリンピックスタジアムで大集会を計画します。一方、ネオ東京沖合のアメリカ海軍艦隊の空母では、アキラを巡る現象を調査する米・ソ共同の「ジュヴィナイルA」計画に参加する軍人や科学者たちがアキラや鉄雄による力の発動を観測していました。鉄雄の能力は留まることを知らず、沖合の空母を急襲して科学者たちの前に姿を現し嘲笑します。
ジョージ山田と行動を共にしていた竜は、山田がBC兵器でアキラと鉄雄を抹殺しようとしていることを知ります。山田は竜と決別し、ジュヴィナイルA計画の遅滞に不信感を持つ海軍提督が呼び寄せた海兵隊の特殊部隊と合流します。
オリンピックスタジアムでは大東京帝国の集会が開催され、鉄雄は月の一部を破壊するパフォーマンスをします。しかし、大きな力を使った鉄雄の肉体は崩壊を始め、鉄雄自身にも制御できない、肉体と機械の融合した怪物となっていきます。
ケイは、ミヤコやナンバーズらの力の触媒となって鉄雄と戦う決意を固め、ミヤコから禊を受けます。沖合のアメリカ海軍艦隊と戦う鉄雄に対し、ケイが立ち向い撃退します。
アメリカ海兵隊、竜、大佐らはスタジアムに侵入を開始します。金田とケイもジョーカーと甲斐のグループに合流します。
沖合から戻ってきた鉄雄はカオリの前で肉体の崩壊を起こすものの、機械の腕を身体から切り離すと腕が再生し、一瞬自分の形を取り戻します。
しかしそこに大佐がSOLの照準器を鉄雄に向け、レーザーをスタジアムに発射します。SOLの再起動を受けて海軍提督はネオ東京への全面攻撃を決意します。SOLのレーザーを防御した鉄雄の体は爆発的に膨れ上がります。
鉄雄を殺すため、アキラを盾にして進む隊長ですが、それを鉄雄に伝えようとしたカオリは隊長に撃たれます。
暴走が止まり形を取り戻した鉄雄は、瀕死のカオリを見つけます。そこへ隊長の武装勢力とアメリカ海兵隊が現れます。ジョージ山田は特殊な細菌ガス弾を使用します。隊長の勢力はガスに呑まれ全滅するものの、ガスを吸収した鉄雄は完全に肉体と精神のコントロールを取り戻します。
海兵隊を全滅させた鉄雄の前に金田らが現れ、決闘が始まります。鉄雄に圧倒されものの、アメリカ軍の戦闘爆撃機による絨毯爆撃が開始され、アメリカ軍の衛星兵器「フロイド」によるレーザー攻撃がスタジアムを破壊します。鉄雄は衛星軌道へ飛翔してフロイドを破壊し、そのまま落下させて空母に直撃させます。ジュヴィナイルAの科学者たちは空母から逃げ出します。
アキラを連れてスタジアムを脱出した金田とジョーカーは、いなくなったケイを探そうとします。鉄雄は死んだカオリを蘇らせようとするものの叶わず、カオリの体を抱え、オリンピック会場地下の冷凍施設へと向かいます。スタジアム内に逃れた大佐とケイだったものの、ケイはミヤコに呼び掛けられ、再び鉄雄と戦おうとします。
アキラ用の冷凍封印カプセルにカオリの遺体を運んだ鉄雄の前にケイが現れます。鉄雄のなかで再び能力の暴走が始まろうとしています。アキラも鉄雄に共鳴して地下施設に足を向け、アキラの後を追う金田らも鉄雄を察知し、竜やチヨコらと合流して地下に向かいます。
地下では鉄雄がまた膨張を始めます。地下で鉄雄の姿を目の当たりにした金田に対し、鉄雄は一瞬姿を取り戻し「助けてくれ」と懇願するものの、再び膨張を始めた鉄雄に金田は飲み込まれます。鉄雄とアキラは手の中に光を発生させるものの、三度目の爆発を止めようとした竜がアキラを撃ちます。
アキラとのつながりが切れた鉄雄は、自分たちを観測するミヤコやナンバーズの能力に引き寄せられ、冷凍カプセルを地下から引き抜くとミヤコ教神殿上空に現れます。不安定な鉄雄を覚醒させるため、ミヤコはナンバーズにアキラの力を解き放たせるよう頼み、鉄雄との決戦に挑みます。
ミヤコに指示を受けたケイがSOLに移動し、鉄雄とミヤコのいる神殿にSOLのレーザーを落とします。すると、鉄雄の最後の覚醒が起こり、光が発生します。同時に、ナンバーズと空に浮かぶアキラがもう一つの光を発生させます。
アキラの光が鉄雄の光を飲みこむ中、鉄雄の体内に取り残されていた金田は、鉄雄の記憶、宇宙の始まり、宇宙が究極の状態を目指して進む「流れ」に介入して曲折をもたらす「能力」を人類が得つつあることの意義、そしてナンバーズの子供たちに行われた実験の過程を目にします。
アキラとナンバーズが鉄雄を吸収し、アキラの光により新しく生まれた宇宙の彼方へと去ろうとする瞬間、金田はケイによりアキラから救い出され、こちらの宇宙に引き戻されます。
爆心地となったネオ東京に国連軍が上陸し、救援が始まります。偵察中の国連軍の前に「大東京帝国」を名乗った金田、ケイ、チヨコ、甲斐、ジョーカー、そして仲間たちが現れ、我々の国に口出しはするなと警告を与え、アキラは俺たちの中に生きていると言い残してバイクで走り去ります。
廃墟の谷間をバイクで駆ける金田とケイを、山形と鉄雄の幻が追い越し、崩壊したネオ東京が蘇るビジョンが見えます。
参考文献
・南信長『現代マンガの冒険者たち』
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