宮崎駿『風の谷のナウシカ』解説あらすじ

1980年代解説

始めに

宮崎駿『風の谷のナウシカ』解説あらすじを書いていきます。

背景知識、演出

ポストアポカリプス

 本作はアポカリプスもの、ポストアポカリプスものジャンルです。

 大規模な戦争、自然災害、疫病、異星人、機械生命体などにより、文明や人類が死に絶えるまでを描くものをアポカリプスもの、ほとんど死に絶えた後の世界を描くものをポスト=アポカリプスものと言います。

 本作は、ポストアポカリプスものです。高度産業文明を崩壊させた「火の7日間」という最終戦争から1000年後の地球が舞台です。汚染された大地には菌類の森「腐海」が拡がり、腐海には昆虫に似た蟲と呼ばれる巨大生物達が広まります。菌類は一欠片でも村に侵入すれば汚染が広がり、菌類が放出する瘴気は、多量に吸い込めば死に至ります。衰退した人類たちは瘴気と蟲から逃げ、錆とセラミック片に覆われた荒廃した世界に暮らします。

 そんな荒廃した世界の中で、トルメキアと土鬼という二大国の衝突が起こっています。腐海の辺境にあるトルメキアと盟約を結ぶのが、小国風の谷で風の谷の族長ジルは、腐海の毒により病床にあり、ジルの娘ナウシカが代理で国を治めていますが、このナウシカが主人公です。

 彼女はやがて、この世界の真実を目の当たりにします。

進化論SF

 本作は人類の進化を描く進化論SFです。

 進化はSF作家にとって初期から切実なテーマで、ウェルズ『タイムマシン』も、ダーウィンの『進化論』の帰結としての非目的論進化論のもたらす帰結としての、人類の後退の可能性への憂慮が作品の背景としてあります。

 物語でやがてナウシカは、腐海生物が旧世界の技術による人工生命体であること、自身を含む現生人類及び腐海外の現生動植物は、旧世界の人々が汚染された環境に適合するよう人類と旧世界の動植物を改造した人工種で、浄化の終わった清浄な世界では腐海生物同様に生存できないと知ります。旧世界の人々は腐海により世界の浄化をしたあと、火の7日間によって科学文明勃興以前の動植物や文化を復活させ、清浄な世界で生きられる新人類をこの世に生み出し、世界を再建しようとしていました。

 ナウシカは墓所の中枢にある肉塊「墓所の主」という旧世界の代理人から、ナウシカに浄化完了後の理想郷の為に協力して欲しいと言われ、汚染に適応した現生人類を元に戻す技術も表面に記されていると語ります。しかしナウシカは、清浄を追求し汚濁を認めない旧世界の計画に反発して協力を拒否し、「墓所の主」を巨神兵オーマに握り潰させるのでした。

 ここには、人は誰かのための理想やイデオロギーのために生き死にするのではなく、生きとし生きるものは生きているがゆえに、それに配慮する義務と価値があるという生の哲学、マルクス的ヒューマニズムが見て取れます。

 

物語世界

あらすじ

 高度産業文明を崩壊させた「火の7日間」という最終戦争から1000年後の地球。汚染された大地には菌類の森「腐海」が拡がり、腐海には昆虫に似た蟲と呼ばれる巨大生物達が広まります。
 菌類は一欠片でも村に侵入すれば汚染が広がり、菌類が放出する瘴気は、多量に吸い込めば死に至ります。衰退した人類たちは瘴気と蟲から逃げ、錆とセラミック片に覆われた荒廃した世界に暮らします。
 トルメキア、土鬼(ドルク)という敵対する二大列強国が覇権を争っている中、腐海の辺境にあるトルメキアと盟約を結ぶのが、小国風の谷。風の谷の族長ジルは、腐海の毒により病床にあり、ジルの娘ナウシカが代理で国を治めています。

 ある日、ペジテ市を滅ぼしたトルメキアの第四皇女クシャナと親衛隊から逃れるため、ペジテの避難民を乗せたブリッグが、腐海に隠れ蟲を殺した為に蟲に襲われ、風の谷に近い腐海の縁に墜落します。ブリッグに搭乗していた瀕死の王女ラステルは、救助にきたナウシカに石を託し、兄に渡して欲しいと言って亡くなります。それは最終戦争で世界を滅ぼした巨神兵を蘇らせる秘石でした。
 巨神兵を狙うクシャナ達が、秘石の捜索の為に風の谷にやってきます。検疫を受けない強行着陸をとがめたナウシカは、クシャナの部下と一騎討ちに。ナウシカの師匠で旅の剣士ユパの仲裁があり、クシャナ達は谷を去ります。

 やがてトルメキアは土鬼との戦争の為、盟約を盾に辺境諸国に出征します。ナウシカは父ジルに代わり、風の谷のガンシップに乗り、城オジと呼ばれる数名の老従者とクシャナ支隊へ合流します。
 土鬼へと腐海を南進するクシャナ支隊の空中艦隊を、ラステルの兄アスベルが操るペジテのガンシップが単機で奇襲し、損害を与えるものの装甲コルベットに撃墜されます。乱戦の中、風の谷のバージのワイヤーが切れ、不時着水します。バージを回収しようとしたナウシカは、地蟲と翅蟲に襲われるアスベルをメーヴェで救出するものの、翅蟲達から腐海の奥に逃げる途中、アスベルがメーヴェから落ちてしまいます。ナウシカも翅蟲達に襲われ、メーヴェから落ちて瘴気マスクを失い、気絶します。

 その後目覚めたナウシカは、腐海下層部の大気が清浄であると知ります。そしてそこの砂とナウシカが以前ユパに見せられた腐海下層部の無毒の砂との共通点から、腐海が汚染された大地を浄化している真実に気づきます。

 土鬼軍は、腐海の植物を品種改良し、瘴気を出す生物兵器を土鬼の町に駐留するトルメキア軍に向けます。人工の森の瘴気は蟲を死に至らせる物で、マスクを持たない軍を退けます。しかし、トルメキアに輸送中の菌類の苗が土鬼各所で突然変異を起こし、重マスクでも浄化できない強毒の瘴気を出し、粘菌が暴走し、混乱が起こります。

 この粘菌を予知していた蟲は、暴走する粘菌に集まります。蟲達が粘菌に自らを吸収させ、粘菌は通常の瘴気となり、暴走は収まります。大量の蟲が移動する現象は「大海嘯」と呼ばれ、移動する蟲の体に付着した胞子が蟲の死骸を介して拡がり、腐海を拡大します。結果、土鬼の主要な国土は滅亡します。
 ナウシカが大海嘯を止めるべく土鬼の地を探索すると、大海嘯が収束し、「森の人」の種族の1人であるセルムに導かれて幽体離脱をし、腐海の植物群が浄化し、蟲達が守る、「青き清浄の地」を目にします。

 その後、土鬼軍がペジテに駐留するクシャナ支隊から奪取しトルメキアに輸送中の巨神兵の胎児と土鬼で会ったナウシカは、覚醒した胎児の前でアスベルに託された秘石を掲げ、巨神兵の母となります。

 土鬼の聖都シュワにある「墓所」は、内部に旧世界の科学技術を保存していて、皇帝達に技術を与えていました。墓所の技術で、兵器としての腐海植物を品種改良したのに加え、巨神兵を復活させた事を知ったナウシカは、瘴気を使う戦争を止め、巨神兵の戦争利用を防ぐ為、「墓所」を封印しようと巨神兵とシュワに向かいます。
 途中ナウシカは、エフタル語で「無垢」を意味する「オーマ」と巨神兵に名づけます。巨神兵は、急速に知能レベルを発達させ、旧世界におけるあらゆる利害を調停する為に人工的に作られた神、「裁定者」として覚醒します。
 その後ナウシカは、古代の動植物や文化を保存している「庭園」に入り、オーマと別れ、「庭園の主」と会話し、腐海生物が旧世界の技術による人工生命体であること、自身を含む現生人類及び腐海外の現生動植物は、旧世界の人々が汚染された環境に適合するよう人類と旧世界の動植物を改造した人工種で、浄化の終わった清浄な世界では腐海生物同様に生存できないと知ります。旧世界の人々は腐海により世界の浄化をしたあと、火の7日間によって科学文明勃興以前の動植物や文化を復活させ、清浄な世界で生きられる新人類をこの世に生み出し、世界を再建しようとしていました。
「墓所」は意識と科学知識を持つ人工生命体でもあり、墓所とオーマが交戦したため、街は墓所以外が壊滅します。
 遅れて到着したナウシカは墓所の中に入ります。墓所の中枢にある肉塊は「墓所の主」と呼ばれ、ナウシカに浄化完了後の理想郷の為に協力して欲しいと言い、汚染に適応した現生人類を元に戻す技術も表面に記されていると語ります。しかしナウシカは、清浄を追求し汚濁を認めない旧世界の計画に反発して協力を拒否し、「墓所の主」をオーマに握り潰させます。
 その後「墓所」は、旧世界を研究し「墓所の主」と共にいる事を望む科学者達と、ヒドラ達、新人類の卵とともに倒壊します。苦しみや悲しみ、そして死も人間の一部である事を受け入れ、汚濁と共に生きてゆく事をナウシカは選んだのでした。
 オーマはナウシカに看取られ、生き延びたナウシカは真実を隠して帰還します。

 その後は、土鬼の地に留まり土鬼の民と生きて土鬼で会った少年チククの成人後に風の谷に帰ったとも、やがて森の人の元へ去ったとも伝えられます。

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