はじめに
梶原一騎原作『あしたのジョー』解説あらすじを書いていきます。
演出、背景知識
教養小説の伝統
梶原一騎は、教養小説の伝統を汲む作家とされます。
教養小説は、主人公が体験を通して内面的に成長していく過程を描く小説です。ドイツ語のBildungsroman(ビルドゥングスロマーン)の訳語です。もともとドイツの哲学者ヴィルヘルム=ディルタイが、ゲーテの『ヴィルヘルム・マイスターの修業時代』や、それに類似した作品群を指す言葉として使用したことで定着したものです。
梶原一騎がこのジャンルにおいて影響を受けたのが、佐藤紅緑とロマン=ロランです。紅緑は少年向けのスポーツ小説などを多く手がけていて、そこから梶原に影響したといわれます。、
ロランは、『ジャン=クリストフ』という、ベートーヴェンをモデルにした激情的な主人公の生涯を描く作品がよく知られていて、梶原一騎はロランを強く意識していました。
フランス新聞小説
また、梶原一騎はフランスの新聞連載小説からの影響が顕著で、そこから長編のドラマを展開する手腕を学びました。
特に好んだ作家が大デュマで、『モンテ・クリスト伯』にちなんだバー「モンテ・クリスト」を経営していたことが知られています。
実際、大デュマと梶原一騎は作家性というか、作家としての魅力がにていて、とにかく設定のアイデアがバリエーションに富んでいて、非凡でなかなか思いつかない物が多いです。
大デュマも『モンテ・クリスト伯』や『三銃士』など、今日のカルチャーに顕著な影響を与えていますが、いずれもセンス=オブ=ワンダーが非凡で、インパクトと汎用性の富むシチュエーション、設定を多く孕んでいます。
梶原一騎の作品も、そのようなセンス=オブ=ワンダーの機知を豊富にたたえています。
ボクシング漫画?
本作はボクシング漫画の代表作のように言われています。
ただ、本作はボクシング漫画ではあるものの、リアルなスポーツてしてのボクシングを描いたものというより、『タイガーマスク』などと同様に、伝奇の文脈を汲むアクション漫画としての性質が強いです。
なので、本作のボクシング描写はファンタジーとしての要素が強く、その点で『はじめの一歩』などと異なります。
物語世界
あらすじ
東京・山谷のドヤ街に、一人の少年が現われます。矢吹丈(ジョー)と名乗る少年に一方的に叩きのめされたアル中の元ボクサー丹下段平は、ジョーと地元暴力団鬼姫会らとの乱闘からボクシングセンスを見いだし、一流のボクサーに仕立て上げようと説得します。しかしジョーはそんな段平を利用し、小遣いをもらってはドヤ街の子供たちを引き連れて暴れ、犯罪に走って警察に逮捕されて少年鑑別所へと送られます。
ジョーに段平から「あしたのために」の書き出しで始まるハガキが届きます。それはボクシングの指南書でした。時間と体力を持て余していたジョーは、それに従ってボクシングの練習をします。
鑑別所から西寛一と共に野菊島の東光特等少年院へ移されたジョーは、豚小屋掃除の際に、西の提案で豚たちを暴れさせ脱走を試みます。しかし力石徹に邪魔をされて叩きのめされます。
その後、小柄な青山とのボクシング対戦で防御法を身に着けますが、対決をしないまま力石は先に少年院を出てしまいます。遅れて少年院を出たジョーはプロボクサーライセンスを取り、ウルフ金串との対戦を実現させて、フェザー級からバンタム級へ転向した力石との対戦が実現します。
過酷な減量に励んだ力石でしたが、激闘の末にジョーを破ります。しかし力石は減量の無理がたたって試合終了後に倒れ、死亡します。
力石を死なせたショックで対戦相手の顔面を打てなくなったジョーは、ドサ回りのボクサーに身を落としながらも試合を続けます。
苦悩の末、カーロス=リベラとのスパーリングで顔面を打てないトラウマを乗り越え、表舞台に復帰します。そして金竜飛やハリマオとの対戦を経て、世界チャンピオンの座を賭けホセ=メンドーサと戦います。
しかし、パンチドランカーになっていたジョーは、ホセに判定負けします。真っ白に燃え尽きたジョーは、満足げな微笑みを浮かべていました。
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