萩尾望都『スター=レッド』解説あらすじ

1970年代

はじめに

萩尾望都『スター=レッド』解説あらすじを書いていきます。

演出、背景知識

進化論SF

 本作は人類の進化を描く進化論SFです。

 進化はSF作家にとって初期から切実なテーマで、ウェルズ『タイムマシン』も、ダーウィンの『進化論』の帰結としての非目的論進化論のもたらす帰結としての、人類の後退の可能性への憂慮が作品の背景としてあります。

 本作の進化論SFとしてのニュアンスは、どちらかというとダーウィン以前のラマルクの目的論的進化論と近く、その点ではクラーク『幼年期の終わり』などとかさなります。

 本作では進化に介入する異次元からの存在である夢魔というものが現れ、これは目的はあきらかではないものの、特定の惑星に取り付き、そこに生きる者たちに超能力を授け、やがてその文明は超能力がもたらす混沌によって破滅します。

 本作ではそんな夢魔に抗おうとするゼスヌセル系の異星人たちが、火星など、夢魔に憑かれた惑星を破壊しようとします。その一方で、故郷の火星を愛し、救おうとする、超能力をもったヒロインのセイが奮闘する、というのが終盤の展開です。

テラフォーミングSF

 本作はテラフォーミングを描くSFです。

 作家ジャック=ウィリアムソンが「テラフォーム」という用語をつくり、普及させました。1942年7月、ウィリアムソンはアスタウンディング=サイエンス=フィクション誌に”Collision Orbit”というSF小説を発表し、これがテラフォーミングの初出です。

 とはいえ、テラフォーミング的な要素はそれ以前のSFにもあります。

 『スター=レッド』は、テラフォーミングによって火星に一部の人々が定着し、その後、そこで生まれた子供に超能力が芽生えたり、なぜか火星では限定的な場所でしか子供ができたりせず、それが作品の謎になっています。

ニューエイジSF

 全体的に本作はニューエイジ思想の影響が強く、超能力を持つ新人類の活躍を描くのはそこに由来すると言えます。

 ニューエイジは近代のオカルティズムで、神智学や心霊主義をルーツにし、人間の潜在能力の無限の可能性の強調、宇宙などの大いなるものとのつながり、個人の霊性の向上、汎神論、エコロジー思想などを特徴とします。

 本作では、夢魔という文明の進化に介入する、別次元からやってきた謎の存在が描かれ、それが超能力と新人類の起源であったことが明かされます。

物語世界

あらすじ

 徳永星(セイ)(本名セイ・ペンタ・トゥパール)は、5世代目ペンタの火星人です。地球人徳永博士の養女として、火星人の特徴の白い髪、赤い目を隠し、地球人のなかで暮らしています。しかし火星に強く惹かれ、火星に帰りたいと願っています。

 火星人は本来は地球人の子孫で、火星は人が住めるようテラフォーミングされたものの、そこで子供が生まれず、火星は流刑地となり、その後しばらくの間忘れられていました。地球人が再び火星に目をとめた時、流刑者の子孫達がたくさんいて、実は聖地と呼ばれる特定の場所では子供が生まれることを流刑者達は知り、世代を重ね、独自の文化を築き上げていたのでした。火星で生まれた者達は超能力を持っていて、世代が下るに連れてその力も強大になっていました。

 火星に目を向けた地球人が火星人の子供を人体実験しようとしたことから、火星と地球の対立が始り、聖地をめぐって、地球人は火星人と争いました。戦争のなか、セイは両親が逃がし、それを徳永博士が育てていました。現在は火星人は姿を消し、火星には地球人がドームの中に都市を作って住んでいたのでした。

 ある日セイは、謎の男エルグに正体を突き止められます。エルグは火星人の特殊能力についてデータを集めていたのでした。

 エルグはセイの特殊能力に関心を示し、何世代目の火星人からその力が現れるのか探ります。エルグもまた、セイ同様に超能力を使うことができました。

 セイはエルグに連れられて、恋いこがれていた故郷火星にやってきます。二人は行方知れずとなっている火星人を探すため情報を集めます。

 やがて明らかになるのは、火星はエルグが元いて滅んだ惑星と同じく、夢魔という宇宙の超精神生命体に取り憑かれていたということでした。それゆえに火星人は超能力を持ち、火星へ移住してきた地球人たちが産んだ子供も、火星で生まれた赤ん坊は超能力を持つのでした。

 夢魔という別次元からやってきた超精神体に取り憑かれた惑星は、その後、超能力を持つ人々によってお互いを滅ぼす宿命があり、この宇宙中でも特に古い種ゼスヌセル系の異星人がこの夢魔に取り憑かれた惑星を破壊してきていました。エルグはその生き残りでした。

 故郷に思い入れのあるセイは、それでも火星を守ろうとし、立入禁止区域となっている、かつて夢魔に取り憑かれ、滅んだ一番古い星へとエルグと向かいます。

 それに対してゼスヌセル系のアーブ人たちは、そこへ有機体を分解する無人機を向かわせ、エルグとセイを抹殺しようとします。しかし、そこで惑星の中に残るテレパシーの共鳴の力に囚われ、セイは肉体を失います。

 肉体としての姿をなくし、セイは精神的存在となります。超精神生命体である夢魔の意識の一部になったようで、ここでセイは彼女を守るために自殺したセイの義父のあとを追い、肉体から魂の離れていたヨダカと出会います。そして、彼が火星人の百黒老によって呼び戻されるのと一緒に、ヨダカの中へセイも戻り、ふたたび生を得るのでした。

 

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