萩尾望都「半神」解説あらすじ

1980年代

始めに

萩尾望都「半神」解説あらすじを書いていきます。

背景知識、作風

分身譚

 本作は、結合双生児を描く分身譚です。

 分身譚に有名なものにポー「ウィリアム=ウィルソン」があります。

 ポー「ウィリアム=ウィルソン」は傲慢不遜なウィリアム=ウィルソンが、自らの分身であるウィリアム=ウィルソンというドッペルゲンガーに付きまとわれて、滅ぼされてしまうという物語です。ストーリーはワシントン=アーヴィングのエッセイ「バイロン卿の未完の戯曲」に由来し、これはジョージ=ゴードン=バイロンが友人シェリーの持ち込んできたスペインの戯曲を元に独自の戯曲を書こうとして挫折したことについて書いたものでしたが、これを下敷きにポーは本作をものしたのでした。

 おなじくドッペルゲンガーをテーマとする作品に、E.T.A.ホフマン『大晦日の夜の冒険』ドストエフスキー『分身』、ワイルド『ドリアン=グレイの肖像』などがあります。

 これらの作品では、分身の存在によって、自らのアイデンティティが挑戦を受け脅かされるプロットをはらんでいますが、本作も同様です。

双子とアイデンティティ

 本作は結合双生児の双子ユージーとユーシーを描きます。双子はやがて肉体の限界を迎えて切り離され、姉ユージーだけが生き残るのでした。

 ユージーの肉体は、これまでずっと結合双生児としてユーシーに栄養を提供していたので、醜く衰えていました。ユーシーのために犠牲になる自分が惨めでした。しかし、ユーシーから切り離されると、栄養を作れないユーシーはまるでこれまでのユージーのように醜く衰えて衰弱死します。

 その後健康と美と成功をつかむユージーですが、鏡に映る自分はかつての妹のようで、病室で見た、醜く衰え衰弱死したユーシーこそ、自分のようであったと感じます。双子であり半身であったユーシーの死によって、ユージー自身のアイデンティティも脅かされるのでした。

物語世界

あらすじ

 少女ユージーとユーシーは、腰で身体が繋がった結合双生児です。妹のユーシーは知的障害があるものの美しい容姿を持ち、周りからは天使のようだと可愛がられます。しかし姉のユージーは高い知能を持っているものの、妹の身体に栄養のほとんどを吸われて醜く痩せ細り、髪も生えません。妹の世話を両親から任され、勉強も妹に邪魔されます。しかも妹の美しさへの称賛をずっと聞かされるのでした。

 やがて双子は13歳になり、二人の身体は限界になります。栄養を作り出せるのはユージーだけですが、もはや二人分の負担に耐えきれずに衰弱し、歩くこともできなくなりました。医師より「切り離す手術をすれば、ユージーだけは助かる」と告げられます。

 手術後、一人だけの身体になり体力も戻ったユージーは妹に面会します。病室のベッドに横たわったユーシーの姿に美しさは見る影もなく、醜く痩せこけ、過去の自分自身のようでした。妹はもう瀕死で、やがて亡くなります。

 年月が過ぎ、ユージーは16歳の健康で美しい少女に成長しました。ユージーは努力で成功をつかむものの、ふと鏡の中の自分にかつて嫌っていた妹の姿を見つけます。あのとき死んでいったのは自分の方だった気がするのでした。

 ユージーは妹への憎しみと愛を意識し、失った半身に涙を流すのでした。

コメント

You cannot copy content of this page

タイトルとURLをコピーしました