高野文子『絶対安全剃刀』解説あらすじ

1970年代

始めに

高野文子『絶対安全剃刀』解説あらすじを書いていきます。

背景知識、作風

アート漫画

 高野文子はアート漫画の代表格です。萩尾望都、石ノ森章太郎などから影響をうけ、その文学的バックグラウンド、モダニズム的前衛的表現から影響を受けました。

 また同人サークル『楽書館(らくがきかん)』に参加し、そこで『COM』や岡田史子、永島慎二などの作品を知ります。1978年、『楽書館』メンバーのつてで、新雑誌『JUNE』に「絶対安全剃刀」を掲載し、この作品が商業デビュー作となりました。

 このように、発表までに永島慎二らガロ系の漫画の刺激や、萩尾、石森からの影響があったりと、創作に文学的、芸術的背景を構築し、そこから表現を組み立てました。

ニューウェーブ

 高野文子は、ニューウェーブの代表的漫画家です。漫画におけるニューウェーブは、1970年代末から1980年代初頭にかけて青年漫画界に現れた、少年漫画と少女漫画、劇画の枠組みを乗り越える動向や革新的表現の潮流について言われたもので、ニューウェーブに括られる漫画家は幅広いジャンルと内容をたたえていて、代表は大友克洋です。

 ジャンルとしてニューウェーブはくっきりした輪郭を持つものではなくて、同時代のジャンル越境的表現を展開する漫画家について広くニューウェーブと呼んで広くそれが定着していった感じです。

 本作においては、各短編が様々な異なるスタイルによって展開されるという形式主義的実験が展開されていて、表現の革新者としての高野の才能が表れています。

物語世界

あらすじ

たあたあたあと遠くで銃の鳴く声がする

 ベッドで目を覚ました中国の少女が「たあたあたあと遠くで銃の鳴く声がする」と言って出かけ、銃を守るために貂に石をぶつけます。

 家に戻って銃に包帯を巻いてあげる少女に母は「貂はどうしたの?」と聞き、少女は「知らない」と答えます。また母のつくるオムレツのケチャップが血を連想させます。

 雨上がりの庭でおかっぱの少女が椿の木に登り、一本だけ残った花を折り自分の髪に挿します。

 軒先で見ていた母親が、生花を髪に挿すと母親が早く死ぬと言い、少女は花を取ろうとするものの髪に絡まります。母親が髪を梳いて花を取ってやり、花を自分の髪に挿します。

 驚いた少女に母親は「うそ」「めいしんだよ」と話します。

はい―背筋を伸してワタシノバンデス

 点描や鎖線が用いられています。

 銭湯にやってきた眼鏡にジーパンの少女。心の中で女性への嫌悪を露にするものの、一人の老女が隣にすわると気持ちが落ち着きます。少女は自分を帝王切開で生んだ母の面影を老女に重ねます

 心の中で老女と対話する少女に、「おかあちゃん」と自分の母親と間違えて子供が声をかけます。声をかけて去っていく老女の背中に、少女は「ツギハ アナタノバンデスヨ」というメッセージを読み取ります。

絶対安全剃刀

 「何もおもしろくない」と自殺を企てる少年と、それを茶化したり諭したりする眼鏡の少年とのやりとりを描きます。

 かっこよく死のうと死装束をまとった少年は、眼鏡の少年が「傷ついていたほうがかっこよく見える」と言おうとするのを止めるものの、口をふさがれた眼鏡の少年は動かなくなります。

 「何にも計画どおりにいきっこない」と死装束の少年は言い、「あしたの朝にはおきろよ」と言ってもう一人の少年の眼鏡を直します。

 最後のコマで何の変哲も無い勉強部屋でのやりとりだったことが明かされます。

1+1+1=0

 サイケデリックタッチです。

「パパとママどっちが好き?」と問われた少年がベッドで煩悶します。

 明日の朝おはようのキスを先にママにするべきかパパにするべきかと思い悩むうち、自分はいつも両親の期待を裏切ってきたのではないか、と不安になります。しかしベッドの上で愛し合うパパとママを見つけ、キスは自分一人きりのものではない、と思い、寝床に戻ります。

おすわりあそべ

 電車の中で「年寄り きらいなんだ」「おんな きらいなんだ」「貧乏人 きらいなんだ」と隣に座った人を嫌って次々に席を移る少女の自意識を描きます。

 最後には立ちっぱなしで、強い嘘つきになりたい、と独白します。

ふとん

 おかっぱの少女の霊が自分の葬式を眺めながら、迎えに来た観音菩薩とやり取りを交わす様子を幻想的に描きます。

 冒頭と最後のページはアングルを固定した同じ形のコマの連続です。

方南町経由新宿駅西口京王百貨店前行

 絵柄は大友克洋風です。

 女3人、男1人の学生4人組の路線バス車内での会話が展開され、男の子は青春の孤独を訴え、女子たちとは会話がかみあいません。男の子は女子の1人に恋心を告白するものの、女の子は「少女まんがみたい」とふざけます。

 やがて別の女子1人が窓の外にスーパーマンを発見したと言い、窓の外を探しているうちに、女の子たちはバスを降り、男の子はバスの中に取り残されます。

田辺のつる

 認知症が始まった老女を中心としたある一家。

 老女は一貫して「きいちのぬりえ」風の幼女の姿で描かれます。

アネサとオジ

 悪たれの姉アネサと気の優しい弟オジの姉弟の物語。

 アネサの意地悪に耐えかねたオジは、それを懲らしめようと様々な策を練るものの、頭上に大きな石を落としても爆弾をしかけてもアネサは平気です。

 作戦を考え、歩きながら本を読んでいると、同時に2つのことができないアネサはそれを見て驚愕し、それ以来オジを師としました。

あぜみちロードにセクシーねえちゃん

 東京に憧れる、田舎の女子高生が主人公。進学せず実家に留まることで「親孝行者」と言われるものの、自室でヘッドフォンでFMラジオを聴きながら「いい子やだな」とつぶやきます。

 放送中に自分の葉書が読まれたらしく、ラジオ局から電話があります。急いで電話を取った少女は5月のコンサートに行けるかどうか聞かれ、「そのころはそっちにいるから」と答えてサザンの「タバコロードにセクシーばあちゃん」をリクエストします。

うらがえしの黒い猫

 萩尾望都のパロディ風で、親の目を盗んで空想に耽る少女エイベルを描きます。

 エイベルは親の見ていないところで、魔女に捕らえられたお姫様になりきります。エイベルは黒猫のぬいぐるみのトウベが見当たらないことを不審に思うものの、実は姫様になりきっているあいだ、邪悪な魔女の化身として自分で切り裂いていました。

午前10:00の家鴨

 男と同棲しているマリーさん。彼女は男に対して将来のことを期待せず、ただ今日が幸せであれば満足です。

 何も欲しがらない、何も期待しない、誰も信じない、誰も待たないマリーさんの幸せな生活が、作り物の家鴨の視点から描かれます。

早道節用守(はやみちせつようのまもり)

 山東京伝の戯作から、浮世絵風の絵柄で描かれます。

 吉原の美女の花荻に横恋慕する悪二郎が、韋駄天の守り札を使って花荻をさらおうとし、守り札を使って様々な登場人物が世界中を駆け回り、めぐりめぐって花荻は相思相愛の幸二郎と一緒になります。

いこいの宿

 「アネサとオジ」シリーズ。

 ある日、アネサとオジの家の前で流浪の青年が行き倒れになります。青年にひとめぼれしたアネサは、自分を可愛くみせる方法をオジから伝授されます。

 特訓の成果を青年の前で披露するアネサとオジを前に、青年は自分が探していたものはあいあだったとひとりごち、「”希望”という名の人形」を残して去ります。

うしろあたま

 「女の子なんだから」という言葉に反感を持つ女学生つじこは、男子学生に「かわいい」と髪型を褒められたことに苛立ちます。

 かよわさを演じる女たちが許せないつじこですが、その男子学生にお茶に誘われるうち、自分が恋心を抱いていることに気づきます。

玄関

 小学生の2人の少女の夏休みの情景を描きます。

 少女えみは、夏の初めに海水浴で溺れかけたことがトラウマで、学校のプールに入れなくなります。そして彼女と一見仲のいい少女しょうこに対して複雑な思いを抱いています。

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