萩尾望都『11人いる!』解説あらすじ

1970年代

始めに

始めに

今日は萩尾望都『11人いる!』についてレビューを書いていきます。

スタイル、演出、背景知識

トランスジェンダーSF(ルグウィン、V=ウルフ)、パニックホラー

 本作品はトランスジェンダー表象を孕んだSFになっています。その点でル=グウィン(『闇の左手』)、V=ウルフ(『オーランド―』)の作品のようなトランスジェンダーSFとなっています。こうしたモチーフは『グノーシア』などの作品に受け継がれていきます。

 また本作は、宇宙船という密室空間を舞台とするパニックホラーになっています。その点でリドリー=スコット監督『エイリアン』、フーパー監督『スペースバンパイア』などと重なります。ただ完成度はずっと落ちます。

長編はよくない

 いきなりアレですが、萩尾望都は長編はあんまりよくないものが多いです。長編では『スター=レッド』『ポーの一族』あたりはいいと思いますが、全体的に水っぽく、時々面白いギミックはあるものの退屈します。けれども基本的に短編作家です(『半神』『A-A’』)。

 本作品もトランスジェンダーのフロルなど面白い要素はあるものの、導入部分が面白いだけでオチも展開も中途半端です。

物語世界

あらすじ

 宇宙大学の受験生である主人公タダトス・レーン(タダ)は、最終テストである実技試験として、10人チームのメンバーとなり外部との連絡を断たれ、惑星「黒」の衛星になって公転周期53日で回り続ける宇宙船・白号の乗員として53日間船内にとどまることに。

 しかし白号に乗り込んでみると、そこは1人多い11人がいます。大学側に事態を知らせようにも連絡手段は司令室に設置された非常用赤ボタンのみであり、押せばチーム全員が不合格になります。試験合格のため11人は規定の53日間を過ごすことに決めます。 

 11人目という不測の存在を抱えつつも試験は順調であるかのように見えたものの、白号の軌道が惑星「黒」の公転軌道から外れて恒星「青」に近づくというアクシデントにより、船内温度が徐々に上昇すします。船内温度が40℃に達すると、船内に繁茂している野生化した電導ヅタに起因する死亡率93パーセント、空気伝染の伝染病「デル赤斑病」が発生する可能性があることが判明します。さらに、タダが5歳の頃、白号に乗船していた際に「デル赤斑病」に遭遇して、乗員の1万人以上が「ワクチン不足」により集団感染し死亡する事件が起きていたことが判明します。

 暑さと伝染病への不安からパニックになり、タダを11人目として殺害しようとする騒ぎになるものの、やがて互いに協力し合い、遂に白号の軌道変更とワクチン抽出に成功するものの、45日目を迎えたところでフロルが発症し、タダたちは棄権を申し出るため非常用ボタンを押します。

 しかし、全チームで最長期間を耐えたタダたちのチームは、首席合格となり、それぞれの未来へと旅立ちます。

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