始めに
藤子・F・不二雄「やすらぎの館」解説あらすじを書いていきます。
背景知識、作風
精神分析の影響
本作は精神分析の影響がうかがえます。本作は精神分析における退行のような心理を描きます。
精神分析家フロイトによれば防衛機制のひとつが退行であり、フラストレーションから、自我を発達段階の初期に戻してしまうものです。
本作における主人公は社長の男ですが、彼は日々社長として敏腕を振るう一方で、無意識のうちに多くのストレスを抱え込んでいます。そして秘密クラブで母子てしてのプレイに溺れた結果、抑圧されていた無意識に由来して、社長は少年のような精神へと退行してしまうのでした。
川端『眠れる美女』との類似
本作は、川端『眠れる美女』と、シチュエーションの多くが共通します。
『眠れる美女』では、主人公の江口老人が友人の木賀老人に教えられた宿で特殊な倶楽部の「眠れる美女」を訪れます。そこでは規則として、眠っている娘に性的悪戯、性行為をしてはいけませんが、それを守れば、全裸の娘と一晩添寝できます。物語は、眠れる美女で江口老人が添い寝をしながら過去のことを回想し、それが意識の流れで展開されていくなかで綴られます。『眠れる美女』では、江口をそこへ送った木賀老人の思惑や眠れる美女という施設そのもののなど、多くの要素が謎に包まれています。
このように本作は川端『眠れる美女』と、中高年の男が特殊倶楽部に訪れて、そこでの経験から若い時代のことなどをさまざまに回想していき、そこから主人公の行動や信念などに変化がある、というプロットやシチュエーションなどが似ています。
物語世界
あらすじ
主人公の社長は、精神的に疲れきっていました。社長の友人でもある主治医はは、彼を心配して「やすらぎの館」という秘密の会員制クラブを勧めます。
しぶしぶながら「やすらぎの館」を訪れた社長は、家具などが不自然に大きく設計された奇妙な部屋に通されます。そこは、催眠術を通じて、来たものを少年時代へと心理的時間を戻し、リラクゼーションを提供する場所だったのでした。
主人公の男は会社の社長で、息子の太一は海外担当重役でした。社長はしばらく入院していて、健康に不安があります。また、会社の株の買い占めが何者かによりなされており、不安は募っています。
そんな中、主人公は、やすらぎの館で出会った巨人の女に催眠術をかけられ、さながら母子のような交情を結びます。
日頃のストレスも相まり、社長はいよいよ枷が取れたように精神的に退行していきます。巨人の女に自分がガンかもしれないという不安を打ち明けると、彼女はおまじないをかけて、気持ちを楽にしてくれます。
その後、社長はやすらぎの館により、完全に精神的に退行してしまいました。息子の太一が乗っ取り一派に吸収されていること、黒幕は右翼の敷島太郎であること、早急に手を打つ必要があることを部下に伝えられても、母にすがるばかりで、まともに答えることもしないのでした。
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